大学入試の近未来を予想する ~英語入試の4技能化は進むのか~

横田 保美
株式会社スタディラボ 取締役
ISO/TC232国内審議委員

『僕は君たちに武器を配りたい』で「ビジネス書大賞」を受賞した瀧本哲史京都大学准教授の最新著作、
『戦略がすべて』(新潮新書)が巷間で話題となっている。
この書の中で、瀧本氏は、日本の大学入試について次のように語っている。

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大学入試科目は3つのカテゴリーに分類できる。
第一は暗記科目カテゴリーで、社会科、物理以外の理科、漢文などである。
第二はいわゆる地頭(じあたま)科目で、努力の投入量が必ずしも成果(得点)につながらない。数学、物理がこれにあたる。
そして第三のカテゴリーが英語である。東大の英語は、実は英語の実用的運用能力(英語4技能)を試験するものではない。東大の英語は様々なタイプの大量の問題を解かせるという出題で、要約すれば大量の作業を正確に短時間でこなせるかどうかという「知能テスト」のようなものなのである。

今、大学入試の英語を例えばTOEFLに置き換えようという動きがあるが、そうなると東大の入試から、従来の英語入試がその役割を担っていた「知能テスト(知的能力のスクリーニング)」の機能が欠落することになる。
現状の英語入試は、実用的運用能力を測定しているとは言い難いが、論理的思考力や判断推理力を測定していると再定義すれば、その意義は高い。

[第5章「人間の価値は『教育』で決まる」から]

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なかなか興味深い指摘である。日本の英語入試は(正確に言えば東大や京大などのエリート大学の入試英語)は本来英語力を見るための試験ではなかったと瀧本氏は指摘する。
しかしこの指摘から、氏は英語の実用的運用すなわちコミュニケーションツールとしての英語や英語力(英語の4技能化)を否定しているとも誤解されかねない。しかし、これは間違った解釈であろう。

むしろこれまでのドメスティックな日本の経済社会では、実用的な英語など必要ではなかったということである。
そして、英語は中上位の大学では勉強に対する勤勉性を測定する科目として、東大などの限られた最上位大学では思考力、推理力、判断力という全教科を横断する学力(ある意味でリベラルアーツが目指す学力と一致する)を測定する科目として活用されてきたということだろう。
しかし今日、英語の実用的運用能力は世界のエリートにとって必須の能力となった。だから、大学入試においても、英語の4技能測定という方向は加速する以外にない。
大学入試センターの教科から外され、複数受験可能なTOEFLやTEAPにすべて置き換えられる可能性すらある。
そして、これまでの英語の試験が担ってきた学力をどう測定するかが、これからの最上位大学の入試改革なのである。

瀧本氏が定義するところの3つのカテゴリーで考察すれば、これからの大学入試、特にエリートの選抜においては、暗記科目の第一カテゴリーは後退し、地頭の第二カテゴリー、教科横断型の論理的思考力や問題解決力などの第三カテゴリーが主役となる。さらに、協働性や人間力の測定(第四のカテゴリー。面接やエッセーなどで試験される)が重視されると予想される。

新しい学力定義に基づいた新しい入試がもうすぐ始まる。今回の改革が教育という狭い枠の中の出来事ではなく、グローバル社会という社会全体が要求している改革であることを鑑みれば、「新中学2年生からは対策が必要」との多くの進学塾の指摘は危うい。未来を生きるすべての子どもたちにとって、今進行している世の中の変化と教育改革は重要な意味を持つのである。

 

補足
*瀧本哲史氏:京都大学産学連携本部イノベーション・マネージメント・サイエンス研究部門准教授。東京大学法学部卒業。
マッキンゼー&カンパニーでコンサルティング業に従事後、独立。エンジェル投資家。

*京大の英語は東大とは異なり英文量は少ない。処理能力よりも、高度な英文を材料に深い思考力と表現力を測定するタイプとなっている。
現在においても難関大学になるほどその入試の出題方針は異なることを、目指す受験生は知っておきたい。

*人間力の測定については、教育環境や家庭環境など親の経済力や社会的地位が強く影響するのでエリート選抜の公平性が毀損される恐れがある、との批判がある。